「少しだけ口に出してみようかな。独立したい、って…」
自分の中で育ってきた独立したい気持ちを、初めてほかの方に伝えたのは、去年の7月、お世話になった先生が開催したセミナー終了後の、懇親会の席でした。自分の気持ちが固まってもいないのに、そんな話をしたら笑われるかな…と、ドキドキしながら口にしたのですが、周りの方からは予想外に、真剣なコメントをいただきました。
「今日話した印象からすると、人と話す仕事は向いていると思うよ」
「独立するなら、早いほうがいいよ。働きながら経験を積む期間は、どうしても必要だからね」
会社では、大勢の人前でプレゼンする機会は、ほとんどありませんでした。診断士になってからも、セミナーは、前回お伝えした「接客セミナー」1回だけです。でも、もしかしたら、もっと努力すれば、話す仕事やコンサルティングの仕事もできるようになるのかな…。そんなことを考えているうちに、少しずつ、周りの方に独立を迷う気持ちを話す機会が増えてきました。
人前で話すときの緊張のほぐし方を教わったのは、所属している研究会の夏合宿でした。この合宿では、観光地へ行き、「ミステリーコンサルティング(略してミスコン)」と称した「勝手に診断コンテスト」を開催しました。商業集積を回り、提案骨子を考え、プレゼン資料をつくり、チーム間で発表して内容を競う、という企画を、正味半日という限られた時間内で行うのです。
「田中さん、プレゼンテーターをやってみようよ。途中で、どうしてもダメだってなったら、フォローするからさ」
そう声をかけてくださったのは、くじ引きで同じチームになった研究会のリーダーでした。独立し、コンサルティングや研修を数多く手がけている方です。
「自分1人で話そうとしないで、観客を巻き込めばいいんだよ。質問したりして、ね」
その言葉を頼りに、みんなの前でプレゼン開始です。しかも、即興力を競う企画なので、資料は先ほど完成したばかり。準備もほとんどできていない中、知り合いとは言え、やはり20名近くの前で話すのは、ドキドキでした。でも、質問や対話をしながら進めたプレゼンは、「接客セミナー」よりはずっとラクでした。
「こうやって話せばいいんだ。プロコンの方の教える力って、すごいなぁ…」
もちろん、話し方の課題は、まだまだたくさんありました。でも、ここで自分を変えてもらったことで、「教えることで人を変える」という仕事の魅力を感じ、自分でさまざまな仕事をしたい気持ちは、さらに強くなっていきました。
月刊『企業診断ニュース』の取材・執筆のお話も、独立した友人の診断士からいただきました。第1話でお伝えした、「ふぞろいな合格答案」に携わるきっかけになった方からです。同じ年に診断士試験に合格したのですが、その後独立し、さまざまな分野で活躍されている方でした。
初めての取材は、一緒に行っていただきました。質問の引き出し方、話のまとめ方に、ただただびっくりでした。でも、そのおかげで掲載記事は、周りの方から「面白い」と評価していただくことができたんです。ここに、こうして連載させていただくことになったのも、もとはと言えば、あの記事がきっかけでした(同友館さん、そうでしたよね♪)。
こうして、独立して仕事をされている素敵な方を目の当たりにするたびに、自分も少しでも近づきたい―そんな気持ちが、日に日に強まります。そんな中、会社で早期退職募集の話が持ち上がったのです。
1971年生まれ。青山学院大学経済学部卒業後、百貨店に入社し、販売や仕入等に携わる。
2008年中小企業診断士登録。2年間企業内診断士として活動した後、2010年1月に独立。現在は、百貨店での経験を活かし、接客やコミュニケーションに関する講師業や執筆活動などに従事している。