現代の小売商業の世界において、リアル店舗に対して、「リアル店舗の強みとは何か?」について再考すべき時期が来ている。ただ一般における商業論や小売マーケティングにおいては「商流」を中心とした取引観が主流を占めており、商品が販売される店舗におけるリアルな「場」=「不動産」についての言及があまり見られなかったように思う。 本書は総合型商業施設を営む、百貨店事業(小売業)とショッピングセンター事業(商業不動産業)がそれぞれ、互いの強みに惹かれあうように接近しようとする昨今の経営事象(企業のビジネスモデルを超えようとする経営行動)について、いかようなインセンティブがあり、個店と集積としての組織の競争と協調がどう調整され、どのように顧客価値の実現がなされているのか、その経営原理について明らかにしようとするものである。
序章 背景と課題 第I部 導入 第1章 先行研究の整理:「取引システム」と「ビジネスシステム」 第2章 研究手法 第II部 理論編 第3章 買取仕入と消化仕入の「使い分けモデル」(A):消化仕入再考(食品の場合) 第4章 賃貸借(賃料方式)と小売(仕入形態)の「使い分けモデル」(B) 第5章 百貨店のSC化(ビジネスシステムのレベル分析) 第6章 SCの百貨店化(1)(「短期取引─ DV 主導組織」の構図) 第7章 SCの百貨店化(2)(一体性のマネジメントと組織能力の獲得モデル) 第III部 事例編 第8章 百貨店のSC化(1)「シームレス化」:東急百貨店渋谷ヒカリエShinQsの事例 第9章 百貨店のSC化(2)「並存化(ゾーン化)」とFC化:あべのハルカス近鉄本店と地方店との店舗間関係の事例 第10章 SCの百貨店化(1)駅ビルのビジネスシステム確立:アトレの事例 第11章 SCの百貨店化(2)飲食・食物販集積の一体性獲得モデル:ルクア フードホールとバルチカの事例 第12章 百貨店の位置づけの変容(1)「百貨店のテナント化」:ルクア大阪の事例 第13章 百貨店の位置づけの変容(2)「SC のマルチアンカー化」: 札幌ステラプレイスの事例 第IV部 結語 第14章 結論:小売業と不動産業の境界領域 補章 コロナ禍における商業空間の変容とデジタル化への対応(試論的拡張)
阪南大学流通学部准教授・博士(経済学)。1972年愛知県生まれ。博士(経済学)、修士(法学)。SC経営士・1級販売士・商業施設士。2008年に名古屋市立大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。流通・小売マーケティングとビジネスモデル論を専攻。百貨店、ショッピングセンターを対象とした研究を中心に行なう。1999年にJR系百貨店に入社し、百貨店の開業準備業務及び運営業務を行なう(その間、グループ会社の百貨店、商業デベロッパー会社に研修出向)。その後、2011年よりショッピングセンターの新規事業開発に携わる(7年間の開発・運営業務)。20年間勤務ののち退社。2019年より福山市立大学都市経 営学部准教授を経て、2022年4月より現職。百貨店小売実務・商業不動産実務に明るい。著書に『駅・まち・マーケティング-駅ビルの事業システム革新』(同友館)がある。
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