昨年、一昨年と好評を博した「中小企業診断士2次試験 受験生最後の日 3つのドキュメント」ですが、タイトルを一新した今年度版(「事例80分料理法」)には、内容にも大きな変更があります。その1つが、受験生の方々の疑問に答えるコーナーを設けたことです。受験生と合格者がパネルディスカッションを行い、それに基づいた記事が掲載されています。
今回お話しするのは、そのパネルディスカッションに司会者として参加したときのこと。受験生お二方からの質問に、平成17〜21年までの各年1名の合格者5名が回答します。同じ質問でも、それぞれが5通りの回答を持っている場面もあり、非常に興味深いパネルディスカッションとなりました。
さて、パネルディスカッション終了後、参加者の皆さんと居酒屋で打ち上げをしていたときに、合格者の方から“ティッシュ”の話が出ました。この方は受験生時代、合格発表でご自身の受験番号をみつけた際に涙が出るシーンをイメージして、受験対策を行っていたとのこと。合格の嬉し涙をふくときは、特別なティッシュを使いたい。だから、そのときのためだけに、あらかじめ高級なティッシュを用意していた、というのです。さらに、合格した自分へ贈るメッセージもティッシュの箱に書いていたといいますから、合格をかなりリアルにイメージされていたのだと思います。
受験生の方々は、時間を捻出して机に向かい、書籍を読み、問題を解き、努力を重ねて合格に値する実力を養っていきます。ここで考えてみたいのが、ご自身が合格したときのイメージです。合格に値する実力を養うことと並行して、ご自身は合格するものとして物事を進めていく。それが、前述の例だと合格用のティッシュで、具体的な「もの」を用意することで、よりリアルな合格イメージが湧きやすくなります。ゴールのイメージがリアルであればあるほど、受験対策のモチベーションも上がることでしょう。
私は、少年野球のコーチをしていますが、投手であれば、ボールを持たずにピッチング動作をくり返すシャドーピッチングという練習方法があります。また打者であれば、実際にボールを打たず、バットを何度も振る素振りという練習方法があります。これらは、日が落ちてボールがみえなくなってしまった場合や、雨天で練習ができない場合、あるいは個人練習にも非常に有効な方法です。
ただ、シャドーピッチングにせよ、素振りにせよ、実際にボールを投げるイメージや打つイメージをしっかり持たないまま、やみくもかつガムシャラに行ったところで、実力の向上は見込めにくいものです。
イメージをリアルに湧かせるということは、当事者意識を持つことにつながります。たとえば、守備練習でノックを受けていて、ある選手がエラーをしたとします。その選手に同じ失敗をくり返させないために、監督は個別に指導しますが、着目したいのは、そのときのほかの選手の姿勢です。観察してみると、エラーした選手に対する指導内容に興味を持つ選手と、そうでない選手がいるものです。自分が指導されているのではないから関係ないとするか、それとも自分に対しての指導内容ではないけれども、関心を持つか。
両者のどちらが実力を伸ばせるかが自明の理であることは、皆さん、お気づきだろうと思います。Sence of Ownershipという言葉がありますが、すべての事柄において自分がオーナーシップを持つことを前提としたら、自ずと意識も変わるのではないでしょうか。
受験生の皆さんには、リアルに当事者意識を持ち、合格という果実をキャッチしていただきたいと思います。