第16回「502教室のコラム」

及川 勝永(中小企業診断士)

診断士資格の取得を目指そうとしている人から、「診断士資格って、役に立つんですか?」という質問を受けることがあります。私も診断士を目指そうと思った当時は、診断士がどんな資格なのか、資格を取るとどんなメリットがあるのかがとても気になりました。
でも、次の質問には答えられません。

「診断士資格を取ったら、独立できますか?」

 質問する本人にしてみれば、せっかく時間をかけて勉強するのであれば、価値が高く、将来的に役に立つ資格を狙いたいと思っての質問でしょう。そして、合格率は高く、勉強時間やお金などの投入コストは低いほうがいいに決まっています。

ここで、ブルームの「期待理論」の式をまねて、「資格の期待値」の式をつくってみました。

資格の期待値=「資格の絶対価値」×「合格率」÷「投入コスト」

 ※本当の期待理論の式は、「努力が報われる確率」×「報酬に対する主観的価値」=「仕事に対するモチベーションの高さ」です。
どうですか? 皆さんの頭の中でも、こんな感じでそれぞれの資格の期待値を計算されているのではないでしょうか。

 私がつくったいい加減(?)な式ですが、さっそく検証していきましょう。まず、この式の中にある「合格率」と「投入コスト」という項目ですが、これは統計的なデータがあれば算出できる値です。問題は、「資格の絶対価値」でしょう。でも、ちょっと待ってください。そもそも「資格の絶対価値」って、本当にあるんでしょうか。ここで改めて、資格の価値について考えてみます。

 皆さんが目指している「資格」には、いったいどんなベネフィットがあるのでしょうか。私が考える資格のイメージとして一番近いのは、「道具」です。たとえば、農作業で使う「鍬」のようなものです。もし畑を耕すのであれば、鍬を持っていれば、ない場合に比べて効率的に作業を進められるでしょう。もしかすると、鍬を持っていない人から「俺の仕事を手伝ってくれ」と頼まれるかもしれません。

 ただし、自動車をつくる仕事をしたいのであれば、鍬を持っていてもほぼ間違いなく役に立ちません。むしろ仕事が多種多様な現代では、鍬を持っていても役に立たない仕事のほうが多いのが普通です。

 このように、どんな仕事にでも役に立つ道具がないのと同様、どんな仕事にでも役に立つ資格もないんですよね。つまり、「絶対的な価値」を持った資格なんかないということです。

 また、弁護士のように難易度が高く、希少性のある資格を取ったとしても、そもそも法曹の仕事が好きでなければその資格が使われることはありません。自分のやりたいことや将来の目的ではない資格を取っても、これまた役に立たないのです。

 とは言っても、診断士資格は他の資格に比べて、汎用性は高いでしょう。ビジネスのさまざまなシーンでその知識を活かすことができます。しかし、残念なことに決して万能ではないし、持っているだけで価値のある「金のガチョウ」でもありません。

 診断士には、「クライアントのために能力を活用できる」、つまりクライアントのことを「考え」、「伝え」、「成果を上げる」といったことが楽しいと感じる、ちょっとお節介な適性が必要になります。

 というわけで、先ほどの式を修正してみました。

資格の期待値=「目的と資格の適合度」×「資格に対する個人の適性」×「合格率」÷「投入コスト」

 この式で資格の価値を算出するためにも、まずは本人の資格取得の目的と自身の適性を分析することが必要になるのではないでしょうか。もちろん、資格を取ってから目的を考えてもいいのですが、私のようになかなか方向性が定まらずに苦労するので、あまりおすすめはできません。

 もちろん、企業価値算出の公式が複数あるように、資格の期待値の公式が複数あってもいいですよね。というわけで、診断士の期待値の別解がこれです。

資格の期待値=「あなたに対する顧客の評価」

 診断士の価値を決めるのは自分自身ではなく、顧客がすべてというのがつまるところの結論だと思うんです。顧客が何を望んでいるかを把握し、顧客のために何ができるかが大切ですよね。

 現在の診断士試験では、「能力」は測定できますが、コンサルとしての個人の「適性」は測定できません。もしも将来、診断士試験で「能力と適性」を測れるようになり、コンサルティングに必要な資質を保証できるものになれば、診断士という肩書きだけで仕事を依頼されることがあるかもしれませんね。

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